「あれ?ドア開けっ放し・・・」

普段キチンと鍵をかけている高耶にしては珍しいなぁなんて思いながら、部屋の前まで行くと靴が左右ばらばらに転がっていた。

「???」



――― 何で靴がこんな所に?



取り敢えず散らばった靴を手に、開けっ放しの扉を開けて中に入り・・・事態を把握した。

「・・・力尽きた、と。」

玄関から数歩離れた所で、高耶が床に倒れたままバイクのメットを抱え込んで眠っていた。

「全く、いくら初夏だからって言ってもこんな所で寝たら風邪ひくよ、高耶?」

邪魔にならない場所に高耶の靴を揃え、自分も靴を脱いで部屋に上がり荷物と上着を部屋の中に置くと改めてメットを抱え込んでいる高耶の側に膝をついた。

「おーい、仰木高耶く〜ん?」

小さな声で名前を呼んでもピクリとも反応しない。
まぁもしこれで目が覚めていたら、いきなり頭を叩かれるのは目に見えているので起きない方がありがたいとも言う。

「熟睡だわ、こりゃ。」

本当だったらこんな玄関口じゃなくて部屋の中まで運んであげたいけど、いくら細身に見えてもやっぱり男の子。
あたしの力じゃ運べないし、気持ちよさそうに眠っている所を起してしまうかもしれない。

「ゴメン。」

小さく謝ると、熟睡している高耶の顔をじーっと覗き込んだ。
気持ち良さそうに眠っている高耶の顔は、いつもの精悍な顔つきとは違って幼く見える。
それにバイクのメットを抱え込んでいる姿は、何処か幼い子どもが毛布を握り締めて眠る姿すら想像させる。

「・・・高耶も小さい頃、お気に入りの毛布とかあったのかな。」

脳裏に幼い高耶が美弥ちゃんと可愛い毛布をかけてお昼寝をしている図を想像すると、自然と笑みが零れた。

「か、可愛いかも・・・」

くすくす笑いながら部屋に戻り、この間洗濯したばかりの新しいブランケットを手に再び高耶の元へ戻る。

「ベッドまで運んで上げられなくてごめんね。」

ふわりと広げて大きな体を小さく丸めている高耶の体を包み込むようにブランケットをかけると、僅かに高耶の頬が緩んだ気がした。

「寒かったのかな?」

心地良さそうにブランケットを肩に引き上げる高耶があまりのも可愛くて、起きている時の高耶には決して出来ない事をしたくなった。
ドキドキしながらそっと手を伸ばし、その背を軽くポンポンと叩く。
まるで母親が、幼い子どもを寝かしつけるように・・・



――― お疲れさま・・・高耶



何度か背中を叩き満足したので立ち上がろうとすると、さっきまでメットを抱えていたはずの高耶の手があたしの腰に回されていた。

「・・・あれ?」

ふと視線を高耶の足元へ向ければ、さっきまで抱えていたメットはお役ゴメンとでもいうように玄関の方へ転がっている。

「・・・あれれ?」

ここでようやく嫌な予感がしたけれど、時既に遅し。
自由になった高耶の両手は、次に腕に抱えるべき物として・・・あたしの体を選んだらしい。
空いている方の片手は手探りで動き、もう片方の手は自分の方へ引き寄せるべく動いている。

「ちょっ・・・起きてるの!?」

何とかその手を振り払おうとするけれど、気持ち良さそうに眠る高耶の顔を見て振り払えるわけが無い。
躊躇している内にあたしの膝の上に高耶が頭を乗せ、その両手はしっかりとあたしの腰に回されてしまった。

「どーいう体勢、これ?!」



枕代わりでも、抱き枕代わりでもない。
あえて言うなら・・・膝枕、が一番近いかもしれない。



「何でこんな玄関口で、こんな事になってんだろ・・・」

はぁ〜・・・とため息をつきながら、えいっと高耶の頬を指で軽くつついてみる。
つついた瞬間眉間に皺が寄ってしまったので、慌てて今度はその手を頭に乗せそっと髪をすく。
普段頭に触れられる事はあまり好きじゃないけど、こうして髪をすかれるのは好きなんだよね・・・高耶。
眉間の皺を解すよう、何度も何度も髪の流れに沿って優しく撫でる。
やがて緩んだ頬を見てホッと胸を撫で下ろすと、これから高耶が目覚めるまで自分はこの体勢でいられるかどうかを考える。

「足、痺れるの確実だな。」

それでも高耶に抱えられて、その寝顔が見れるなら足が痺れるくらい安いもんだ・・・と自分に言い聞かせ、腕時計を外してそれを部屋の中に放り投げた。





時を計るなら、高耶の寝息で充分
夜が来て、朝がやって来ても・・・
貴方の瞳が開くまで、太陽は昇らない





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えーっと、蜃気楼本編が終わってどれくらい経ったでしょう。
つい最近、蜃気楼メモリアルと言う短編集が出ました。
・・・完全にそのメモリアルの影響で書きました(笑)
だって赤鯨衆の人がおいしい情報を流すんだもんっ!!
仰木隊長は抱きクセがある、って。
バケツを抱えてる姿は可愛かったなんて言われたら・・・完璧ネタになるでしょう!(笑)
だから、バイクのメットを抱えさせてみました。
ちなみにこの話、高耶サイドの話もありますので、出来ればそちらも読んで貰えると嬉しいな。
意外に、いい話に仕上がってる・・・つもり、です(汗)